(会員談話室投稿)

        安井元副会長の「人工光合成で世界最高効率達成」について:

                    鬼塚磐雄( 昭和35年(1960年)応用化学科(火薬コース)卒)

ご投稿、興味深く拝読しました。

太陽電池+水電解との対比、当然されるべきことなのに世の中は意に介さぬようで、このご指摘、私には後述のような経験もあり、わが意を得たりです。

人 工光合成は、我がノーベル賞受賞者の根岸さんが言及されたこともあって、世にもてはやされている感がありますが、メタノールや簡単な炭化水素を作るくらい なら、現在ある技術の延長・組合せで出来るわけで、これを性能、建設費等、何らかの点で超える評価がされるまでに至らなければなりません。

この種の新聞記事に対し、私もこういう視点で見るべきことを投稿、指摘したりしてきましたが、こういった常識的なこともなかなか世の中には理解されにくいようです。

これはもののみに注目し、エネルギーの視点が欠けているからでしょう。

1998年前後、RITEの同種研究テーマの中間評価委員会に参加したことがあります。

光合成までは行かなくて、水素の製造だったと思いますが、委員はほとんどが大学の先生で、企業からは私が一人でした。

その評価の目安として、私は太陽電池+水電解との対比を述べたのですが、どうも研究畑の先生方には不興を買ったようでした。

その以前にも同じくRITEの温暖化ガス対策としてのCO2からメタノールのテーマの中間見直しの会に出たことがあります。化石燃料からエネルギーを取ったあとに残ったものがCO2で すから、これをまたエネルギーのある物質に変えようとするならば、効率を加味すると、取ったエネルギー以上のエネルギーを加えねばならない。国費を投じて の永久機関の追求になってしまう。そういうことで私はこのテーマの不健全性を指摘したのですが、研究を継続すべきか否か、ということでは腰砕けになり、あ とで悔やんだことでした。このテーマスタート直後の1990年ごろの燃料協会誌には、これはエネルギー輸送或いは貯蔵の観点では意味があり得るが、と書きましたけれども。

私は20075月の親和会報のリレー・エッセイで、「化学工業も発電同様エネルギー変換である。」と書きましたが、人工光合成も全くその範疇です。ものを見るのにエネルギーの視点を常に忘れないことです。

 


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